2年以上前に始まった日本株式市場の復活の要因として、投資家が中国から資産を再配分したこと、20年近く続いたデフレが終焉したと思われること、規制改革、企業が株主重視の姿勢を強めていること等が挙げられている。[1]
このブログでは、規制改革によって企業のファンダメンタルズとガバナンスがどの程度変化したかを評価した。当社の結論として、ガバナンスの実践は進んだものの、ファンダメンタルズの改善は遅れており、投資家が日本市場へのポートフォリオ配分を評価する際に懸念となる可能性がある。
資本効率と利益率には依然として不満が残る
資本効率と自己資本利益率(ROE)は投資家と企業との間で主要な論点となってきた。[2] 東京証券取引所(TSE)が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を自主的に開示する企業を毎月リストアップし始めていることから、投資家による精査の度合いは増すものと思われる。[3] TSEの取り組みの意図は、東証上場企業の半数がPBR(株価純資産倍率)1倍割れ(時価総額が簿価を下回る状態)であることに目を向けさせることである。PBRが低いことは、予想利益が低いため資産価値が割安だったこと、あるいは多数の日本企業が株主資本の活用において価値を低下させていたことを示している。
日本の中型株・大型株のROEは、過去30年以上にわたり米国と欧州のピアを下回る状態が続いてきた。ROEを売上高利益率、総資産回転率、財務レバレッジの要素に分解するデュポンモデル分析に基づくと、日本企業のROEの低さはレバレッジの低さを反映している面がある。。ただし、負債の少なさは資産回転率の上昇につながり低レバレッジの影響を一部相殺している。純利益率の低さもROEを低下させてきた。[4] 一般的に利益率の低さは粗利益の低さに起因する。粗利益率を改善するには、コスト構造、サプライヤー戦略および価格設定の変化が必要になるだろう。
日本、米国、欧州株式市場の主なファンダメンタル指標
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ガバナンスの推進は財務パフォーマンスの向上を目指している
PBRが1倍を下回る日本企業の割合が高いことは、日本の経営文化が歴史的に株主価値を十分に優先してこなかったことを示しているかもしれない。[5] 日本におけるスチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの採択とその後の改訂の目的の一つは、株主と企業の利害の一致を促し、取締役会の説明責任を促すことであった。[6] 投資家と規制改革による圧力は取締役会の独立性を高めることに焦点が置かれ、経営陣の監視を強化するとともに、株主価値を引き出す要求から経営陣を遠ざけるような慣行を阻止することを目指してきた。
株式持ち合い[7] は他の先進国では稀だが、日本企業では事業関係を強化するため長年続いてきた。この慣行は資本の非効率的な活用であるとの批判が続き、持ち合い関係の解消が長年呼び掛けられてきた。[8] 2023年のMSCIジャパン・インデックス構成銘柄に占める株式持ち合い企業の比率は、2019年の43%から2023年の36%に低下した。同時に、潜在的に有利な買収提案を株主が検討する機会を制限するとして批判されてきた、ポイズン・ピルの数も減少してきた。ポイズン・ピルのフラグが立ったMSCIジャパン・インデックスの構成銘柄の割合は、2019年の5.6%から2023年の1.8%に低下した。
日本、米国、欧州企業においてガバナンス・キーメトリックにフラグが立った割合
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株主投票の動きは、2014年のスチュワードシップ・コード採択以降、目立って変化した。2016年以降、ベストプラクティスとみなされている、経営陣から独立した取締役が過半数に満たないと評価された取締役会の割合は減少しており、減少の割合は、取締役に対する顕著な反対投票のフラグが立った取締役会の増加の割合とほぼ一致している。指標の変化は、投資家がガバナンスとパフォーマンスの不足を認識した際、取締役会に対する説明責任を以前より積極的に問うようになった可能性を示唆している。
日本企業における取締役の説明責任と独立性

株式市場の堅調なパフォーマンス継続の鍵は資本効率の向上であろう
過去2年間、世界の株式市場をアウトパフォームした後、日本株市場の上昇は2024年2月も続いた。MSCIジャパン・インデックスとMSCI ACWI(日本を除く)インデックスの現地通貨ベースグロスリターンは、2022年はそれぞれ-4%と-16%だったが、2023年はそれぞれ29%と22%となった。米ドルベースでは、両インデックスのグロスリターンは、2022年はそれぞれ-16%と-18%だったが、2023年はそれぞれ21%と23%となった。日本株のパフォーマンスは売上高の増大によるところが大きい。[9] しかし利益の伸びは同程度に至っておらず、利益率は悪化している。
日本、米国、欧州株式市場のリターンの分解

日本企業のガバナンス慣行における段階的な改善は、投資家と規制改革からの要求を受けて実現されたものである。次に注目されるのは、同様に外部圧力で資本効率の向上を期待できるかどうかである。資本効率の向上達成は、株主価値を引き出し、日本株市場の堅調さを持続させる鍵となる可能性がある。