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日本のアセットオーナーが為替ヘッジを再考すべき理由


5 mins read March 19, 2026 | Masaya Abe



Key findings

  • 日本の代表的なアセットオーナーの資産配分は、株式や外国資産への投資比率が高まるにつれてリスクを高めてきました。一方、均等加重ポートフォリオはリスク水準を安定的に保ってきましたが、その内部構成は大きく変化しました。
  • 外国株式および外国債券の為替リスクに占める米ドルの割合は、過去15年間におよそ31%から58%へと約1.9倍の増加となりました。
  • 為替ヘッジは一貫してリスク低減に寄与してきましたが、その一方でリターンを低下させる要因にもなりました。ポートフォリオに与える正味の効果は時期によって異なるため、普遍的な最適ヘッジ比率というものは存在しません。

世界の投資環境は大きく変化しました。直近の MSCI ACWI指数の構成を見ると、米国株式が約63%[1] を占めており、グローバル投資に米国市場の動きが及ぼす影響の大きさが改めて浮き彫りになっています。近年の円安基調を背景に、為替ヘッジを行っていない外国資産にとっては、為替変動はこれまで以上に重要な要素となっています。米ドルが為替リスクの主要なドライバーになっていることを踏まえると、日本のアセットオーナーにとって重要なのは、こうした構造変化がポートフォリオのリスクにどのような変化をもたらしたのか、そしてリスク、リターン、分散効果のバランスを取るうえで、為替ヘッジがどのような役割を果たせるのかという点です。

配分の変化がポートフォリオのリスクを押し上げた

ポートフォリオのリスク構成がどのように変化してきたのかを検証するため、約15年分のデータを使用し、四半期ごとにリバランスされた2つのポートフォリオを比較しました。一つは、代表的な日本のアセットオーナーの資産配分を反映したもので、もう一つは、以下の4資産を均等に組み入れたポートフォリオです。国内株式(MSCI ジャパン指数)、外国株式(MSCI ACWI (除く日本)指数)、国内および外国の債券(MSCI 先進国市場国債指数の日本および日本以外の構成要素)をそれぞれ25%ずつ組み入れています。

この期間を通じて、過去の資産配分に基づくトータルポートフォリオリスクは、国内債券から株式および外国債券へと構成比が移るにつれて概ね上昇しました。特に、資産配分の変更が大きかった2010年代半ばには、リスクの上昇が顕著でした。リスクを分解してみると、国内株式市場のリスクが引き続き最大の要因である一方、外国資産への構成比が高まるにつれて、為替リスクの重要性が高まりました[2]

従来の資産配分の下ではポートフォリオリスクが上昇

Japanese government bonds can break hard in stress episodes

資産配分の推移

Japanese government bonds can break hard in stress episodes
データは2009年12月31日から2025年12月31日までの四半期時系列に基づき、四半期ごとにリバランスした結果を MSCI マルチアセットクラスモデル(MAC.L)を用いて算出。またコンポジットポートフォリオは、国内株式(MSCI ジャパン指数)、外国株式(MSCI ACWI(除く日本)指数)、国内債券および外国債券に加え、初期段階ではわずかながら現金にも配分。債券については、MSCI 先進国市場国債指数のうち日本部分を国内債券、日本以外の部分を外国債券として扱う。

以下の分析では、4資産を均等に組み入れたポートフォリオを維持し、同じく15年間に遡って検証を行います。これにより、ポートフォリオのリスク構成の変化を、ポートフォリオ構成比の変化から切り離して把握できます。

均等配分の下では、サンプル期間中のトータルリスクは長期平均をわずかに下回る水準にあります。国内株式のリスクは長期的な水準に近い状態を維持する一方、為替リスクはやや低下しました。トータルポートフォリオリスクは安定しているものの、その背後にあるリスク要因の構成は変化したのでしょうか。

4資産均等加重の下では安定したポートフォリオリスク

Japan’s historical bond stresses relevant for today were cross-asset sell-offs
データは2009年12月31日から2025年12月31日までの四半期時系列に基づき、四半期ごとにリバランスした結果を MSCI マルチアセットクラスモデル(MAC.L)を用いて算出。またコンポジットポートフォリオは、国内株式(MSCI ジャパン指数)に25%、外国株式(MSCI ACWI(除く日本)指数)に25%、国内債券に25%、および外国債券に25%配分。債券については、MSCI 先進国市場国債指数のうち日本部分を国内債券、日本以外の部分を外国債券として扱う。

ポートフォリオリスクの構成の変化

4資産均等加重のポートフォリオは、米国市場と米ドルの動きから受ける影響が徐々に大きくなりました。過去15年間で、外国株式および外国債券にかかわる為替リスクのうち、米ドルが占める割合は約31%から58%へと約1.9倍に増加しています。この増加は特に外国株式で顕著であり、外国債券よりも米ドル関連の為替リスクの上昇幅が大きくなっています。米国の寄与度は、現地市場リスクにおいても過去15年間の平均を上回る水準となっています[3]

4資産均等加重ポートフォリオにおける米ドルおよび米国市場リスクの寄与度が上昇

Our scenario assumptions
データは2009年12月31日から2025年12月31日までの四半期時系列に基づき、四半期ごとにリバランスした結果を MSCIマルチアセットクラスモデル(MAC.L)を用いて算出。

為替リスクにおける米ドルの寄与度を分解

為替リスクにおける米ドルの寄与度(リスクへのパーセント寄与度、以下「米ドルPCTR」)は、米ドルエクスポージャー、米ドルリターンとポートフォリオの相関、そして為替リスクに占める米ドルボラティリティの割合の積として表すことができます。

米ドルPCTR が時間とともにどのように変化したのかを把握するため、開始日からの累積対数変化を、これら各構成要素の累積寄与度に分解して分析します[4]

期間中、米ドルエクスポージャーは着実に上昇しました。相関は2020年半ばまではプラス寄与でしたが、その後はマイナス寄与に転じました。それでも 米ドル PCTR は上昇基調を維持し、2020年半ば以降は為替リスクに対する米ドルのボラティリティ比率の上昇に支えられました。総じて、米ドルの為替リスクへの寄与度は高まりましたが、その背景にあるドライバーの組み合わせは局面に応じて変化しました。

この結果を踏まえ、次に為替ヘッジがポートフォリオのリスクとリターンにどのような影響を及ぼすかを検証します。

上昇トレンドは不変でも、相関からボラティリティ比率へと要因変化

Credibility stress hits hardest — especially for USD-based investors
データは2009年12月31日から2025年12月31日までの四半期時系列に基づき、四半期ごとにリバランスした結果を MSCI マルチアセットクラスモデル(MAC.L)を用いて算出。寄与度は、開始日からの米ドル PCTRの累積対数変化の対数分解として表示。また米ドルボラティリティ比率は、米ドルボラティリティを為替リスクで割った値として定義。

為替ヘッジによるリターンとリスクのバランス

為替ヘッジがポートフォリオのリターンとリスクにどのような影響を及ぼすかを評価するため、ヘッジ比率を 0%(ヘッジなし)から 100%(フルヘッジ)まで変化させて分析しました。約15年の全期間に加え、2020年以前および2020年以降の3つの期間に分けて分析を実施しました。結果として、いずれの期間においても、ヘッジ比率が高いほどボラティリティが低下する一方で、リターンも低下する傾向が見られました。ただし、リターン対リスク比率の属性は期間によって異なりました。2020年以前ではヘッジ比率 75%が、2020年以降ではヘッジなしのスタンスが、全サンプル期間では50%のヘッジ比率が最も高いリスク調整後リターンを示しました。以上の結果は、最適なヘッジ比率が市場環境によって変化し、単一のヘッジ比率が常に最適となるわけではないことを示唆しています。

為替ヘッジ比率がポートフォリオのパフォーマンスに及ぼす影響

Credibility stress hits hardest — especially for USD-based investors
データ期間:2009年12月31日~2025年12月31日。 4資産均等加重ポートフォリオを四半期ごとにリバランスした過去のパフォーマンス。リターンとリスクは年率換算。リターン/リスクは、リターンをリスクで割って算出されるリターン対リスク比として定義。

為替ヘッジによるポートフォリオバランスの強化

日本のアセットオーナーにとっての課題は、概ね安定しているリスク量そのものではなく、リスクが市場や通貨の間でどのように構成されているかにあります。米ドルの為替リスクへの寄与度が上昇し、その背景にあるドライバーが環境によって移り変わってきたことで、ポートフォリオの成果は通貨要因に対してより敏感になっています。

こうした環境下では、通貨エクスポージャーの管理がポートフォリオ構築の重要な要素となります。控え目な為替ヘッジであっても、長期的にポートフォリオの構成や分散効果に影響を及ぼす可能性があります。日本のアセットオーナーは、特定のヘッジ比率を目指すのではなく、リターンとリスクのバランスを維持するために為替エクスポージャーを積極的に監視し、管理することにより、為替管理をポートフォリオの長期的なレジリエンスの戦略的要素として位置づけることが可能です。

脚注:

  1. 2026年1月30日時点。
  2. リスク分解において資産間の相関関係が考慮されている結果、債券のローカル市場リスクはマイナスのリスク寄与を示しています。債券と他の資産クラスがマイナスの相関関係を持つことでポートフォリオ全体のリスクが低下するため、マイナスの寄与となっています。
  3. MSCIマルチアセットクラス(MAC.L)モデルにおけるカントリーリスク要因は、ポートフォリオの株式部分にのみ当てはまるシステマティックリスク要因です。もう一つの主要な要因は、ホームバイアスによって生じる日本のカントリーリスクです。また、外国債券リスクの大部分は為替リスクに よるものです。
  4. ここでは、logは自然対数 (ln) を表します。log(米ドル PCTR) は、 log(w) + log(ρ) + log(σ_USD/σ_p) と分解できます。ここで、w は米ドルのエクスポージャー、ρ は米ドルリターンとポートフォリオの間の相関係数、σ_USD/σ_p は為替リスクに対する米ドルボラティリティの比率を表します。米ドルPCTRに対する累積対数寄与度の時系列は、各時点 t において log(PCTR_t/PCTR_0)、すなわち相対変化の分解として計算されます。全期間に対して、log(0.58/0.31) ≈ 0.63 であるため、exp(0.63) ≈ 1.9倍となります。
    本ページの内容は情報提供目的に限定され、専門的な機関投資家向けに、パフォーマンス情報を解釈するのに必要な分析資源およびツールとともに提供されることを意図したものです。記載内容に、何らかの商品、ツールやサービスを推奨する意図はありません。法律、規則または規制に関するすべての言及について、情報は「現状有姿」で提供され、法的助言または拘束力のある解釈を構成するものではありません。規制または政策対応に準拠するための取り組みについては、必要に応じて、ご自身の法律顧問および/または関連する所轄官庁とご相談ください。
Masaya Abe
Masaya Abe

Executive Director, MSCI Research & Development